ハッチングは癒しの効果?

Capsule-2 (part) f4 Mixed-medium

1か月くらい前から、やたらにハッチングを多用している。ハッチングとは面相筆のような細筆で、細かく線で描き込んでいくテクニックのこと。薄い絵の具を何度も重ねて一本の細い線を描く。つまり一本の線の下には数本、または十数本の線が積み重ねられていることになる。

ハッチングは、油絵技法が完成する前の、テンペラ画に主に使われていた古典技法のひとつだが、現代では描写的、説明的との理由でほとんど使われなくなっている。私自身もここ数年は半ば封印状態だった。なのになぜ今になってそれを多用するのかといえば、頭よりも目と手だけ、時間と手間だけが膨大に必要な単純作業によって癒されるからだ。

震災の衝撃から1か月後、私自身にもひとつの問題が起きた。表面だけ見れば、私自身の判断ミスによる小さな問題のようだったが、その根は深く、私にとってはこれまでにない深刻なものになった。

精神的なショックで絵が全く描けなくなってしまった。人の噂や人の口。他人だけでなく自分をも信じられなくなり、これまでやってきたことがすべて無意味だったのではないかと強く感じた。新たな作品に気持ちを向けようとしても、そのことが頭から離れない。同時に、絵の方から厳しいしっぺ返しを受けたのだとも私は感じた。「生活のために絵画講座や絵画教室などを開き、いつの間にか最優先すべき絵のことをおろそかにしてしまった。これは絵が私に下した罰なのではないか」。

余計なことを考えずに細い線にひたすら没頭できるハッチングが癒しになっている。