絵画教室の人々−2

野の草 水彩
野の草 水彩

※これは架空のお話。実在の人物とは何の関係もありません。

ある日、先生が薔薇を画題にと持ってきた。花を見るのは好きだが、描くのはどうも苦手だ。何より棘があるのが気に入らない。ちくちくと痛そうで腕も筆も動かなくなる。

先生は別に薔薇を描かなくてもいいとは言うが、他に何のアイデアも無いので薔薇を描くより道はない…。ところが、ところが、である。今日に限って何だか上手く描けるじゃない?ふふっ、だてに長年やってるわけじゃないって実力がついに…!思わず鼻歌が出そうになるのをこらえつつ、夢中になって描いてしまった。ふう、程よい疲れってこれよね。

次回まで花は咲いていてくれないから、一気に描けるところまで描くのが花を描くコツ。腕まくりをして、思わず前のめりになった時「あれー?それ私のキャンバスー」。スの音がスーッと伸びた。椅子の後ろに私のニューキャンバスが純白の美しさを放っていた…。

 

絵画教室の人々−1

ウィリアム・ブレイク 憐れみ 水彩
ウィリアム・ブレイク 憐れみ 水彩

※これは架空のお話。実在の人物とは何の関係もありません。誰かに似ていても怒らないで。

私は絵が好きです。子どもの頃は「上手ね」とかおだてられて、褒められたさに一生懸命描いたのが懐かしい。学校の先生が校外展に出してくれて賞状なんかもたくさん貰ったのに、学年が上になると、なんだか絵を描いているだけで周囲から白い目を感じるようになった。本とノートを開いているだけで親が喜ぶのが分かるようになって、いつの間にか絵を描かなくなっちゃった。…そして絵のことを忘れてしまっていた。

ン十年経って、ふと思ったんだ。「お前はわがままな子だ」とか親類にも言われ、そんな気もして肩を細くしてたけど、本当はわがままどころか、やりたいことを我慢して生きてきたのかも知れないなあって。私っていつも気がつくのが人より遅いんです。

ゲージュツの道は険しく遠い(らしい)。その長〜い道程から見れば先生も私たちも大した違いはないだろうが、隣の席にちょっと先生が筆を入れると、急になんだかよく見えてしまう。もう先生の絵に洗脳されちゃっているのかな。ベテランはその辺がわかってらっしゃるのか、「先生、これちょっと良いでしょう?」と挑戦的に見せる。本当に満足しているのか、「手出し無用」とバリアを張っているのかは、新人では窺い知れぬ奥深さ。

私などこうはいかぬ。先生の顔を見るなりなぜか謝ってしまう。「済みません。全然思うように描けなくって」。思う通りに描ければ教室になど通わないと、頭の中とまるっきり正反対のことを口が勝手に喋ってしまう。自分の口ながらコントロールできず。口の代わりに手が勝手に絵を描いてくれれば嬉しいのだが、どうも自分の手は筆(と包丁と掃除機アンド洗濯機)に触るのは、遺伝的に苦手らしいのだ。それは私のせいではない。