藤沢伸介展

「森の眷属(けんぞく)たち」木、針金 藤沢伸介展)
画廊ウインドウに貼られた「切り紙」(奥の人物は作者ではありません)

毎年個展の案内を頂いても不義理がつづいたが、下北沢での藤沢さんの個展に、数年ぶりに行くことができた。私にとって藤沢さんは「雲の上の人」である。私だって美術の世界に足を踏み入れてもうすぐ50年になる。少しくらい上手だとか、ユニークだとか世間にちやほやされるくらいのレベルには全然驚かないし、羨ましいとも思わない。でも、彼の自由自在な感覚は、一見手が届きそうなのに届かない、つかめそうなのにつかめない、まさに雲のように高い存在なのである。

「森の眷属たち」。公園か、ひょっとしたら誰の家の庭にでも落ちていそうな小枝のきれっぱしが、ひとつの世界を語っている。のではなく、藤澤さんが、消え入りそうな存在の彼らに新しいいのちを吹き込んで、語るべきステージをつくったように私には見える。そのような彼に、小枝たちはいとも気安く、語りかける。―そう書けば「ああ、そういう世界ね」、と知ったかぶりをする輩が必ずいる。けれど彼の小刀は、そういう奴らの鼻を明かすくらいは余裕の熟練度だ。清少納言だったか、「切れすぎる小刀は」良くないと言っているが、彼の小刀は、ボキッと自然に折れたところまでは削らない。心憎い、抑制を知っているセンスなのだ。

もうひとつ感心したのは、ウインドウに「(無造作に)貼り付けられた(半透明の)切り紙」(写真下)。私は高村光太郎の妻、智恵子の切り紙を畏敬しているが、そのような冴えを見せているにも拘わらず(技術的にはそれ以上)、それらはおそらくほとんどの来廊者には「展示外」扱いに見えるだろう。「分る人には分かるだろ」という、作者の無言の、実は決して「無造作」ではない、ひとつの挑戦なのだろう。「風神雷神」「鳥獣戯画」「猿蟹合戦」などを動画で見るような切り紙(あえて「切り絵」とは呼ばないでおく)は、あんがい彼の真骨頂なのかもしれない。ぜひ注意深く見てほしい。

こっそり奥様に聞いたところによると(初めてお目にかかったが)、最初は水彩画だけでやりたかったとか。そういう意味では、今回は余分なところにばかり眼を惹かれてしまったが、まだ青年のような彼のことだから、いずれ瞠目すべき水彩画が描かれるに違いない。

Gallery HANA galleryhana2006@gmail.com (11月10日まで)