退院 / Discharge from hospital

good mornning
good mornning

退院の朝。朝日が向かい側の団地の白い壁から反射している。

何から何まで全て初体験の入院だったが、世の中は毎日こんなことを、川の水が流れるように、一瞬も止まることなく繰り返している。だが本当は、スーパーで野菜を買うのも、交通事故で間一髪助かるのも、全く同じ程度に稀有で、一回限りのことなのだ。人は誰も二度と同じことを繰り返すことはできない。時間は流れている。昨日の野菜は今日の野菜ではない。昨日の私は今日の私ではないのだ。

入院中、ピカソとマティスを集中して見た。彼らが新しい世界を切り開く作品を、次々と発表し始めたのはちょうど100年前。何となく解っていたつもりでも、見る度に新鮮な発見があるのは、さすが巨匠たちである。何度も見た筈の絵に、何度も初めて見る歓びを感じさせてくれる。

ピカソもマティスも、新鮮な野菜のようだ。毎日毎日新しく生まれ変わっている。流れる川のような力が作品から放射されている。幼い時は血となり肉となり、青年の時代には走るエネルギーとなり、今はまた愉しみとともに害悪を洗い流す薬ともなっている。新鮮な野菜を摂ることは、愉しみだ。

私も新鮮な野菜になりたい。      2016/12/3