試作

下描き
      「夕焼け・駅近く」試作   水彩

細かい下描きなのでフィキサチーフで定着、そのまま着彩した。構図としては、もっと横長にして、鉄道施設を右から1/3くらいでとどめ、左側を大きく空けるつもりだ、と前回の記事で書いた。そして、やっぱりその方が魅力的だと思う。

この絵でなぜそうしなかったのかと言えば、単純に、小さなスケッチブック(F4)で試作したから。「理想の構図」で描くには、もっと大きなサイズで描く必要があるってことですね。小さく描くよりは大きく描く方が、一般的には容易だからね。

もうひとつ。「理想の構図」では、空が広くなり、グラデーションのテクニックの巧拙が出来を左右する。そのテクニックを探るのも「試作」の仕事。この「夕焼け」、けっして「きれい」とはいえないもんね、もう2段階くらいスッキリ抜けてなくっちゃ。
 そのためにはどうするか、考えるヒントになるのも「試作」の役目。ちなみに、用紙はファブリアーノ紙(イタリア)の中目を狙い打ちで使ってみたが、ピントが合ってなかったようだ。用紙と(自分の)表現との相性はとても大事です。多くの作家は、好みに合った紙が見つかれば、それ以外は使わなくなるようです。まあ、当然といえば当然でもありますが。

「夕焼け・駅近く」

「夕焼け・駅近く」エスキース1
同エスキース2
同エスキース3

「夕焼け・駅近く(「踏切近く」にすると、なんだかナマな感じがするんだよね)」というタイトルで、夕焼けの絵を描こうと考えている。いろいろ考えた中で3つの素材をひとつの構図にまとめ、3つのアイデアで具体化してみた。雰囲気としては「旅行中。どこかの見知らぬ地方都市の駅近くを夕方に通過中」。

結論から言えば、どれもこのままでは使えない。が、エスキース3の左側を、このまま1.5倍くらい延ばした構図で試作してみよう、と思う。

「旅情」と「夕焼け」はどこか波長がぴったり合う(合いすぎかも)。何もない美しい空がこの絵の本当の主役になるはずだ。他はすべてがシルエットで、ほとんど説明がないのが、見る側のイメージを搔き立てる(のが理想)はず。鉄道施設はできるだけリアルに描くほうがいい。夢のような風景が、夢ではなく現実であるためには、このリアリティは不可欠。これは絵画的には「説明」ではなく、「必然」。遠景の建物に窓など描くこと、つまり「不必要な細部」を描き加えることを、説明と呼ぶ。でも、一個くらい明かりの灯った窓を描くかも。それは「おまけ」という。

シルバーポイント

「貝がらと小瓶」 シルバーポイント

シルバーポイントとは「銀筆」のこと。といっても一般の人にはたぶん分からない、と思う。純銀を、それより硬いものに擦りつけると、削れてそこに付着する。それが酸化して黒ずみ、鉛筆に似た黒さになる。先端を鉛筆の芯のように加工した銀の棒を使い、自然な化学変化を利用して絵を描くこと、道具、作品をまとめてシルバーポイントと呼んでいる。
 なーんだ、鉛筆の代わりか、ではない。銀は高価なうえ、酸化にも時間がかかる。鉛筆(黒鉛)のように安価、簡単、便利には使えないのである。そのうえ、「下地」という面倒なひと手間が必ず必要だ。逆に言えば、「鉛筆」が文明の道具としていかに優れた発明であったかも実感する(現代ではそれすら不要になりつつあるけれど)。

酸化して黒ずむのは銀に限らない。鉄もアルミも、他にも酸化する金属はいっぱいある。それらを使った描画(材)を総称してメタルポイントといい、それはそれとして使用されているらしい(アルミホイルを丸めて擦れば絵が描けるってことですが)。けれど、画材としてシルバーポイントだけが特別に人気があるのは、なんと言っても「銀自体の持つ気品」ゆえでしょう。腐っても鯛、“錆びても銀”なのだ(喩えが不適切ですか?)。ちなみに「金筆」は存在しないはずです、よね?

写真の絵は制作後まだ日数が経っていないうえ、風が通らない状態にあったので酸化が進んでいない。つまり、まだ“ナマ”な状態にある。酸化したあとが楽しみですね。慌ただしい現代、こんな超スローな制作自体が贅沢な時間なのではないでしょうか。