生死を分ける稜線

登山家ウェリ・シュテックが40歳でエベレストで滑落死するまでの半生を、スイスの放送局が編集したものの一部をネット配信で見た。「生死を分ける稜線」はそのタイトル。

「他の人が自分を見たら、あいつは気違いだというだろう」。彼は自分でそう言い、ある山では、落石に頭を直撃されて200mも落下し、二度目は友人を高山病で失う。「この山は自分のものじゃない」と二度も撤退しながら、結局は三度目にチャレンジする。「自分はこれまで挑戦してこなかったんだ。」たくさんの危険な岩壁を超人的なスピードで登る、登頂までの最短記録をつくりながらそう言うとき、彼の「挑戦してこなかった」とはどんな意味だったのだろうか。

一歩誤れば谷底へ真っ逆さまという危険な雪の稜線を、彼は実際に走る。「滑落死が常にとなりにある。」映像はそれが彼にとっては日々の練習でもあることを示す。

生きるということとピッタリ背中合わせの死。そんなぎりぎりの、極限の美学があるんだなあと思う。