天使と悪魔が同居する / Angel lives with Devil

東通・岩屋の風力発電/Air driven generator

下北半島・東通村、岩屋地区の風力発電の風車のスケッチ。津軽海峡を見下ろす台地状の山の上に、現在の日本で最も集中的に同目的の風車が立ち並んでいる地区だ。福島原発事故以来、急に脚光を浴び始めた「自然再生エネルギー」の象徴でもある。ここから南に十数キロ、そこには今や悪の象徴とされつつある、原発(Higashi-dori Nuclear power plant)がある。東通村はいわば「天使と悪魔の同居する村」だ。

先週ある本を読んだ。「森林飽和」(太田猛彦、2012.NHKブックス)。太田氏は、「自然は自然のままにしておくのが一番良いという考え方」を捨てるべきだと言う。里山の「大きな木を伐ってはならない」という考えを否定する。「日本の森林は既に飽和状態にあり、この飽和状態を放置すること自体が新たな自然?災害を招く」から。現在の感情的な自然志向の高まりに、ある意味で水を差すようにも見えるが、実際に山や海岸をスケッチしながら歩くと多くの点で納得がいく。

そのような巨視的歴史的な目でエネルギー問題を考えると、いきなり原発か自然エネルギーかの二者択一を迫ることの危険性が感じられる。「天使と悪魔の同居する村」は木を見て森を見ない、現代日本の思考の縮図とも言えるのかも知れない。

 

原発と風車 / N-power plant and Fan-driven generator

東通・岩屋の風力発電/Air driven generator

最近、右耳が聞こえなくなってきた(左耳は正常)。特にヒトの会話音域での聴力低下がひどい。原因はいろいろあるだろうが、結果だけから見ると、くだらないことを聞かずに済んで、良いことなのかも知れないと、半分本気で考えた。

スケッチは青森県・東通村岩屋地区での風力発電用風車と津軽海峡と大間崎方面を望む風景(大間崎はスケッチに見える半島の、さらにその奥。この日肉眼では見えなかった)。現在、この岩屋地区は日本で最も発電用風車が集中している場所だ。風車の、地上から羽根の付け根までが60mちょっと。羽根の直径がやはり60mを少し超えるそうだから、どれかの羽根が垂直に立った時、その先端の地上からの高さは約100mに及ぶ巨大なものだ。そばに行くと低周波から、五感に感じる様々な周波数の音が身体を震わせる。

ここからほんの十数キロ離れたところに東北電力・東通原発がある。同じ村内ながら、一方は大きな期待を担いつつある自然再生エネルギーであり、一方は今や悪の権化と見做された原子力発電所だ。天使と悪魔の同居する村と言えばいいのだろうか?正直なところ、この矛盾だらけの日本で、何でも依存症候群の日本人(私も含めて)のこの単純な二元論には、私はとても不安でついて行けない。2030年代原発廃止をぶれずに推進すると言った野田さんが、一週間も経たずに自らぶれてしまったし、あれほど騒いだ尖閣問題も、中国のデモがちょっと鎮静化したらもう報道は数百分の一になって、紙面から消えてしまった。竹島のことなどまるで初めから無かったかのように見える。

そういえば、左耳の耳鳴りも気になってきた。こんな話を聞かずに済むように、脳が自己防衛を始めたのかもしれない。

ウニの解禁日 / Open date of the sea-urchin

ウニの解禁日 / Open date of the sea-urchin

下北のウニの解禁日の様子。下北半島の海岸といってもなかなか広く、海岸の環境もかなりの違いがある。太平洋岸、津軽海峡側、陸奥湾側、砂浜、砂混じりの岩場、磯、断崖絶壁、波の荒い海、穏やかな海といった具合。これは太平洋岸の白糠(しらぬか)という集落の前海。砂浜と断崖の間の磯という環境。

ここの海は女性や子供でも(体力的な意味で)ウニを採ることが出来る海だ(漁業権がないと採集できないことは他の地域と同じ)。過去には膝までの裾まくりで採れた時代があったという。さすがに今では裾まくり程度では採れないだろうが、ごらんのように腰まで程度の深さ(1m位)なら、今でも十分に採集可能だ。沖を見ると、ウェットスーツに素潜りで採る人もいる。こちらはかなり体力が要る。さらに沖なら舟で採る。

ここのウニの味は抜群。下北の中でも1、2を争う味の良さだ。日本全体としてウニはやはり南より北の方が美味いが(世界的にもそのようだ)、同じ下北でも磯の環境、潮の流れ等の影響で結構ばらつきがあるらしい。利尻島のウニがここの味とよく似ていたような気がする。日本人のように生のウニを食べる国、地域は世界的に見て、どうも多くはないようだ(「ウニの身」という言い方を見たり、聞いたりしたことがあるが、食べる部分は正しくは身ではなく卵である。お盆前後の時期に受精が始まり、殻の中にミルクのような精子が見られるようになる。資源保護の観点からいえば、この時期に採集を解禁するのは将来的に問題がある)。

食べ方としては生食以外に、海外では焼いたり、ソースにしたり、生地に混ぜてパンやケーキのようにして食べるようだ。ウニをベースにアワビやホタテなどを十年物のぶ厚いホタテ貝に入れ、味噌仕立ての卵とじにした「味噌貝焼き(みそかやき)」は一度食べてみる価値が有るだろう。世界全体でみるとウニを食べる人口はかなり少ないようだが、ウニ好きから見れば、あまり流行しない方が有難い。クロマグロのように、需要が増せば、そのうち食べられなくなってしまうに違いない。

ウニは雑食性で、海藻だけでなく魚などの死骸も食べるらしい。しかし基本的には豊かな海藻が無ければウニは育たない。豊かな海藻はきれいな海が無ければ生育しない。つまり海の自然環境を良くすることが、(当然のことだが)安全で美味しいウニを頂くことにつながるということだ。