大湊(おおみなと)

海上自衛隊大湊基地2012正月

父の介護に通った病院から車で2分、海上自衛隊大湊総監部(60数年前の旧日本海軍大湊基地。太平洋戦争の幕開け、真珠湾攻撃への連合艦隊はここに集結したらしい)がある。現在は海上自衛隊の大湊・北海道方面司令部になっている。1月3日の夕方、久しぶりに穏やかな冬の日、病院の帰りに寄ってみた時の写真だ。

小学生の頃、海洋少年団というのがあった。やせっぽちでひよわだった私は「海の男」の強いイメージに魅かれて入団を熱望した。手旗信号などはすぐに覚えた(なぜか今でも覚えている)。白い将校服に憧れたのが今では夢のようだが、艦を見ると、今でもなんだかドキドキする。

私は戦争を知らない世代だ。でも子供の頃の親の話といえば戦争に関わった話が多かったように思う。戦後20年も経っていない時点では、まだ記憶も生々しかったに違いない。

国のため、親のため。そうやって自分自身を見つめることのできなかった祖父・親を見ていた。そんなこと真っ平御免、俺は俺流で生きるよ、と両親の心配を鼻で笑い飛ばしてきた自分が、いざ自分の子供に対してみると、なんだ俺もかと愕然とする。

基地のラッパが鳴った。ラッパのそれぞれの意味はもう忘れてしまった。   2012/1/16

 

 

 

雪について思い出すこと

 

冬の下北(Simokita in winter)2012

下北の、いや下北に限らず雪の風景は美しい。モノクロームの世界とよく謂われるので、ついそんな風に思いがちだが、自分の体験をちょっと振り返れば、決してそうではないことを誰でも思い出すだろう。

先日、この雪の風景に触れ、なんだか忘れ物を取りに帰ったような気がすると書いた。たしかにそうなのだ。中学生自分にはほとんど勉強などせず、ウサギやヤマドリなどの罠かけに夢中になったり、その途中、スキーで危うく2度も遭難しかけたりしたことを、今回の帰省中毎晩のように弟や母と思い出しては話したものだった。それらは自分の体のどこかに沁み込んでいて、こんな雪を見ると自然に気持ちが昂ぶってくるのをくるのを感じていた。父のことがなければ、2、3日はウサギ罠でもかけに出かけたかもしれない。もっとも、それがなければ帰りさえしなかったに違いないが。

本格的に絵を描くようになったはじめの頃、いろんな色を使いこなしたあと、やはり最後はモノクロームだなあと何度も思ったのは、こんな風景を見てきたからだろう。いつの間にか生活に追われ、そういうことさえ忘れてしまっていた。私のことを「幻想作家」だと言った人がいる。それは恐らく当たっている。ごく小さな子供のころからなぜか自分でも そんな風に感じていたからだ。雪は幻想を育む。雪国は幸いである。

 

 

ウィリアム・ブレーク

ウィリアム・ブレーク 「ダンテに尋ねるベアトリーチェ」 水彩

ふとウィリアム・ブレークを思い出した。ウィリアム・ブレーク(1757-1827)は、非常に宗教色の強い作風の詩人・画家だ。版画職人でもあるらしい。彼の絵を初めて見たのは学生の頃、今から40年ほど前のこと。デッサンの狂っているような、ちょっと変わったデフォルメが印象に残ったが、詩人の余技だろうとタカをくくって、それ以上踏み込まなかった。

それから10年ほど経って、あるきっかけでイギリスに10日間ほど立ち寄れることになったので、イギリスの水彩画を少しだけ集中的に見ることにした。まずは常識的にコンスタブルとターナーが第一候補である。

まずはテートギャラリーへ。たまたま「ウィリアム・ブレーク展」が開催中。大した絵は無いだろうと思いつつも、ポスターを見ると何だか胸が騒ぐ。まあ同じ水彩でもあることだしと、少しだけ道草を食うことにした。これが思わぬ大正解。

ブレークの焼けるような熱い魂に触れた気がした。誇張ではなく、ほとばしる勢いに圧倒された。自分のやっていることはいかに気持の薄い態度であったかと打ちのめされる思いで、その作品群を見た。そのあとコンスタブルもターナーも確かに見たはずだが全く覚えていない。(東京でルオーのパッション全作品を見たときもそんな感じ。ルオー展会場から銀座の街へ出た時、街から色が無くなってしまったように感じたのを思い出す。)

最近まるで自分の絵に自信が持てなくなった(それはとても苦しいことだが、必ずしも悪いことばかりとは考えていない)。他人の真似をしているとは思わないが、五里霧中、どこに自分が居て、どこに向かって歩いているのか分からなくなったのだ。つい、どこかで他人のトレイルを辿りたくなる。そんな時、これからは「ブレークを見よ」と自分に言い聞かせよう。

ブレークの評価は高いが、万人に心地良い絵だとはとても思えない。息苦しいような、責められているような、誰しもそんな思いを少なからず感じさせられるに違いない。人によっては不快でさえあろう。それを突き破って進む、あの情熱。失ってはいけないものをいつも私に思い出させる絵なのである。  2011/10/28