私たちの才能

つるこけもも 水彩 F6
つるこけもも 水彩 F6

サヴァン症候群という、かつては特殊な自閉症の一種と考えられていた、脳の機能障害がある。様々なケースがあるようだが、簡単に言えば見たままを写真のように記憶するという「症状」がよく知られている。

絵を描くための、形を正確に捉える訓練にほとんどの人が相当苦労する。私ももちろんその一人。そういう人たちから見れば、それは「障害」というより、羨ましいような「才能」に見える。ヘリコプターで上空から一目見たニューヨークや東京の風景を、大小の建物やその高さ、街路などをそのまま写真を見るように長大な紙にスラスラと描き出すことで超有名な、スティーブン・ウィルトシャーなどがその典型だ。日本の山下清もそうだったらしい。

ただ、彼らには新しい画材の工夫や、描画技術の向上というものは基本的に出来ないらしい。そのための理論的な理解や想像力といった、別の「脳力」が与えられていないからだと言われている。

正確なデッサン力も無く、色彩や明度の微妙な差を捉える才能に恵まれなくても大丈夫。観る人の99.9%はそのような私たちの仲間である。0.1%の眼力ある鑑賞者も、たぶん作者の表現しきれていないところまで深読みしてくれる、という楽観さこそ私たちの大いなる「才能」だから。

街のイメージ-1

都市のイメージ
都市のイメージ

現在制作中の絵の一部。テーマの中の重要な部分ではないが、描いたり消したりしているうちに、ビルの形や運河のようなものがひとりでに浮かび上がってくるのが面白い。そこにちょっと手を加えるだけ。何か潜在的なものがあるのかも知れない。

飛ぶ男(仮題)

イカロスの再飛翔(仮題)-210×273cm (2013:制作中)
イカロスの再飛翔(仮題)-210×273cm (2013:制作中)

「飛ぶ男」(仮題)を制作中。モチーフはギリシャ神話に出てくる「イカロス」。イカロスは天宮の大工ダイダロスの子。名人である父ダイダロスが作った羽根を背中に、イカロスはどんどん高く飛び、太陽に近づき過ぎて、その熱で羽根を付けた蝋(ろう)が溶けだし、とうとう海に墜落したという神話。傲慢を戒める含意があるらしい。

世界一高い飛翔を目指した若者イカロスが、海に墜落してハイお終い、なんてもったいない。今度は父ダイダロスの力を借りず、自前の翼で飛ぶ。イカロスの墜落神話から数千年、再飛翔までにはやはりそれだけ時間がかかるということでしょうか。