接点

「オウムガイ、酒器とシンビジウム」   水彩 F6

ここしばらく、YouTubeにビデオをアップしていなかったことは先日言いました。忙しかったのもあったけど、それ以上にヤル気が起きなかったからだ、ということも書きました。でも、水彩は続けていたんです。

教室もあったから当然と言えば当然なんですが、こっちの方はやる気があったんです。ですから、「何にもする気がしなかった」というのは、ちょっとオーバーでした。

なんで水彩にヤル気が出たかというと、「夕焼け」を描いたことがキッカケです。水彩ではグラデーションと滲みが一番水彩らしいと感じられている、と思う。じゃあ、何が何でもできるようにならなくちゃダメじゃん!そう考えてやってみると、「自分が思うほどには」うまくできないんだ。100%、いつでも完ぺきなグラデーション、滲みができるようになるにはどうしたらいいかな、なんて考えたら、ついつい連作することになったというわけです。

そいで、グラデーションと滲みをテーマのひとつにした動画「夕焼けを描くー水彩」を制作してみたんです。やってみて、グラデーションと滲みが “ヘッタクソー” だと自覚をさらにあらたにしました。水彩でも油彩でも、細かく描くことはいくらでもできるが、コントロールの効きにくい滲みこそテーマだ、と目下の課題にしました。そして、これを油彩的にはどう展開できるか、ということも考え始めたら、とりあえず無気力状態でいられなくなってきたように思うんです。無気力が悪いと言ってるわけではないんですけどね。

水彩画のリカバリー

「水辺1」
「水辺2(終了)」  水彩

滲みやグラデーションはもっとも水彩らしい表現の一つ。滲みもグラデーションもコントロールの難しいテクニックですが、これを避けては通れません。頑張って乗り越えていきましょう。

でも、失敗した時、ちょっとしたリカバリーの仕方を知っておくと、気持ちがだいぶ楽になることは確かです。水辺1はべつに失敗したわけではありませんが、シンプル過ぎて、何かひとつ物足りない感じがしませんか。

かといって、モノを加えたり、画面を洗うように上に新たな色を重ねたりするのは、絵の狙いそのものが変質したりなど、それなりのリスクがあります。水彩は大胆な破壊が大ジャンプを呼びやすい画材ですが、毎回大胆な破壊ということは無計画そのものということでもあり、それ自体心理的に負担かも知れません。
 水辺2は、そこに小さなアクセントを持ち込みました。白はガッシュでもいいのですが、アクリルのライト・モデリングペーストとチタニュウムホワイトの混合がお勧めです。ペインティングナイフを使い、エッジはマスキングテープです。
 ガラスを一枚置いて見ているような感じがしませんか?白によって暗い色も輝きと透明感が増したように、自分では感じますがどうでしょう。

小さく、静かなリカバリーに見えますが、テクスチャーを変え、見え方の視点を変えるなど、考え方としては案外大胆なんですよ。でもかたちが小さいのと、縦横だけに限定してで動きを抑え、色も白だけなので(上にかすかに水彩を加えた」)おとなしく見えているのです。一つのリカバリー法として使えるんじゃないでしょうか。

中世の装飾写本展-上野・西洋美術館

西欧中世の装飾写本。Dのイニシャルが絵になっています
こんなに金が使ってある!
ミサのための楽譜。現代の楽譜の原型ですね

昨日(2024.6.30)、東京上野の国立西洋美術館で「西欧中世の装飾写本」の展覧会を観てきました。時間が無かったので、ササっとだけですが、鑑賞者も多くなく、ちょっとだけ高尚な気分を味わえる、お勧めの展覧会です。8月半ばまでやっていますので、暑くて何もしたくないようなときには「教養」がオイシイかも。写真撮影が自由なのも嬉しいです。

彩飾写本はこれまでにも西洋美術館ほかで何度か見たことがありますが、最近では久しぶりです。展示品の多くは、グーテンベルクが活版印刷を発明する2,3百年前のものです。紙からインク、筆、ペン、フォントまですべて各寺院、修道院による手作り、手描きの聖書、時禱書や典礼から、掲示する規則などの類まで、多くの書物、書類が遺っているようです。今でもたぶん、一部では伝承されているはずです。

紙はいわゆる「羊皮紙」。羊や牛の皮を薄く薄くなめして、向こう側が透けるほどです。インクはいろんな草木、骨などを燃やし、その炭に脂などを練り合わせて作ります。もちろん家畜の飼育から解体、紙つくり、筆やペンの製作まですべて自前です。ワインやチーズ生産などの農業から、法律、アートなどの文化インフラ、寺院建築から戦争のための武器生産まであらゆる経済産業、文化の土台が、教会やこうした修道院などの中で作られ、広められ、洗練されてきたんですね。ヨーロッパの文化の底辺はこうやって出来上がってきたんだなあ、ということの一端が感じられる展覧会です。

印刷関連デザインで、「モリスの法則」というのがあります。近代デザインで大きな足跡を残したウィリアム・モリスによる、美しいページレイアウトのための、本文と天地、ノドなどのアキとの分量比のことですが、モリス以前にも、あらゆる試みがなされていることがわかります。(写真はすべて会場でのスマートフォン撮影です)