坂本新市展を見て

坂本新市「世界樹」

川越、ギャラリーユニコンで開催された「坂本新市」展を見た。素晴らしい作品展だった(会期は既に終了。会期中にアップ出来なかった)。恥ずかしい話だが、「坂本さんの作品に注目しだしたのは最近 のこと。数年前から。最初は「何か言いたいことが詰まっているようだが、雑音が多く、よく聞き取れない」という印象だった。

ほんの数年前から、彼は一つの色彩を捨てた。捨てたことによって、彼に必要な色だけがキラキラと輝くように残されて、それが彼自身の持っている色彩を、より一層引き立てているように感じた

「世界樹」という彼のテーマはずっとずっと以前から温められていて、それを表現しようとさまざまな行為、工夫を積み重ねてきたことは、作品の前に立った瞬間から風のように吹きつけてくる。しかし以前の悪戦苦闘ぶりがすっと奥に引っ込み、彼の声だけが無駄なく魅力的に伝わってくる。これまでのすべてがぴったり噛み合ってきたという印象だ。大変な集中力がその背後にあったに違いない。

以前のような、少し遠慮した、おどおどした言い方でなく、ハッキリ、堂々と「これがオレの世界だ」と宣言し、実際にその価値があると認めさせる個展だ。昨年彼は国画会の会員に推挙された。これから毎年、彼の独立宣言以後を追っていくことができる。彼のような有為な作家を、このタイミングで(彼にとっては厳しかったが)会員に推挙できる、国画会の懐の深さもさすがだと思わせた。 2011/9/16

絵画の技法

旅がらすの男(部分・制作中) F6 テンペラ

上の絵は 昨日の「シェルターの男」を少し進めたもの。テンペラ混合技法で制作中。絵を描くということについて、少なくとも現代においては精神性のみが重要視され、技法や画材などは重要なものとはほとんど見做されなくなっているようだ。

しかし実際には、絵を描こうと思い立って画材店を訪れた瞬間から、画材と技法は頭から離れなくなるに違いない。よく「絵なんて思った通りに描けばいいんだよ」「自由に伸び伸びかくこと」と言われる。私自身もおそらく数百回は口にしただろう。けれどそれができるのには、実はある条件を満たすことが必要なのである。

ある条件とは何か。一つは油絵の具に限ること。もう一つは画材に関する、特別に鋭い感性があること、だと思う。

油絵の具を選択すれば、ほぼ「思った通り」「自由に伸び伸び」は誰でも手に入れることが出来る。出来ないという人は「思った通り」が自分自身の中で曖昧なままなであることが原因。イメージをきちんと確認すれば、ほぼ誰でもその人なりの「思った通り」が実現されるはずだ。「自由に・・」は、・・ネバナラヌを振り捨てられるかどうかだ。いずれにしても本人が問題で、画材については万能だと言っていい。

ところが、油絵の具以外ではたとえば最も使いなれているはずの鉛筆や水彩絵の具でさえ、思い通りに伸び伸び描ける人は稀だ。ましてや日本画やテンペラ、フレスコなどと言うに至っては、日常的な想像ではまるでついていけない。「特別な感性」のある人だけが、その基本的な性質だけを参考に、技法にまで想像力を届かせることが出来るだろう。

つまり、油絵以外はどれも技法的な制約をかなり強く受け、どうしても技術に固まって「自由に・・」とはなりにくいということだ。これはプロの作家でも変わらない。

けれど作品には精神性こそが大事で、技法など重要なことではない、というのはやはり正しいと私は思う。つまり、油絵以外の画材を「運命的に」選択したならば、その技法を徹底的にやりぬき、まるで無意識であるかのように扱えるようになる以外にない。絵画において最も重要なモノはイマジネーション。そこでは技法(への意識)など邪魔なのだ。

そのことを最近になって思い出した。そういえば今日も暑い日だった。室温36度。終戦記念日。甲子園の高校野球は青森の光星学院がかろうじてベスト8に進み、奈良智弁学園が9回のツーアウトから対横浜高校1-4を9-4にひっくり返した。世の中は予想外、想定外があることの方が普通なのだということも。   2011/8/15

 

テンペラをもう一度やり直し

栃木蔵の街(こうらい橋) ペン  2011

川越・ギャラリーユニコンで「坂谷 和夫」個展を見た。非常に素晴らしい個展だった。これまで何度か坂谷氏の個展は見てきたが、会場が広い分、余裕ある大作がとても見ごたえがある。作品上の疑問も少しあったが、作品を前に作家の話を聞き、過去の作品も見られたことでそれもほぼ解消した。なにより作家のポリシーに揺らぎがなく、その鮮明な立ち位置に感銘をうけた。久しぶりにいい勉強になった。31日まで。

最近数年ぶりにテンペラをやり直している。ここ数年テンペラを描かなくなったが、もともとテンペラを捨てたわけではなく、マチエールや、環境問題との兼ね合いから、アクリル、アキーラとの相性を探る都合上、アクリルその他の画材研究をしていたからだった。ある程度その方向での目途はついてきた。今度はそれらの総合を目指して再びテンペラに戻ってきたというわけだ。

それにしても数年のブランクは酷い。画材の感覚が全然手についてこない。20年以上やってきたのにコロッと完全忘却している感じがあって、戸惑う。それでも年末までには何とか大作まで漕ぎつけたい。それにしても暑い。体力・視力ともに落ちているが、何とかして研究を完成させ、今より自由な扱いが出来るようになりたいと願っている。