水彩は小さめの作品に向く

ポットのある静物(部分) 水彩 F6
ポットのある静物(部分) 水彩 F6

私自身にとって水彩は一つの新しい可能性だ。これまで水彩の難しさだと思って敬遠してきたことが、実はことごとくそれこそが可能性だと思えるようになってきた。

たとえばもっとも難しいのが、水彩絵の具の濃度調整。常に最適の濃度を作り出すことは至難の業だが、逆に言えばそこに個人の感覚の閃きのようなものが反映されやすい。失敗と成功の紙一重の不安定な状況が最初から最後まで続くのが水彩だが、それが自分の感性を開く可能性と表裏一体だと感じてきた。

それにストロークの個人差。油絵のタッチに相当するが、ぼかし、滲み、跳ね、かすれなど油絵より数段繊細で、かつよく見れば大胆簡潔。それが水彩の魅力の一つだと次第に分かってきた。

けれどそれらは大画面では見えてこない。理由は絵の具の層が薄いことが一つ。薄いうえにカラフルだからでもある。でも、それは水彩の欠点ではない。画面を小さくすれば、それらのすべてが見えてくるのだから、小さくすればことは足りるのである。水彩は小画面にもっとも適したメディアだと思う。

飛ぶ男(仮題)

イカロスの再飛翔(仮題)-210×273cm (2013:制作中)
イカロスの再飛翔(仮題)-210×273cm (2013:制作中)

「飛ぶ男」(仮題)を制作中。モチーフはギリシャ神話に出てくる「イカロス」。イカロスは天宮の大工ダイダロスの子。名人である父ダイダロスが作った羽根を背中に、イカロスはどんどん高く飛び、太陽に近づき過ぎて、その熱で羽根を付けた蝋(ろう)が溶けだし、とうとう海に墜落したという神話。傲慢を戒める含意があるらしい。

世界一高い飛翔を目指した若者イカロスが、海に墜落してハイお終い、なんてもったいない。今度は父ダイダロスの力を借りず、自前の翼で飛ぶ。イカロスの墜落神話から数千年、再飛翔までにはやはりそれだけ時間がかかるということでしょうか。

水彩の楽しみ

カンパニュラと青いリンゴ 水彩 F6
カンパニュラと青いリンゴ 水彩 F6

水彩は難しい。小学高学年で初めて水彩絵の具に触れ、大きな壁にぶつかった苦しさを思い出す。

それから50年近くになるが、楽しさと可能性を感じてきたのはごく最近のことだ。厄介で美しく、軽くて深い、この水彩の魅力を引き出す、しかも出来るだけ「楽ちんな方法」を発見したいものだ。