85歳の初個展

今日、85歳を記念しての、初個展をする人(女性)の作品陳列を手伝ってきた。油彩画11点、水彩画23点の見ごたえのある会場になった。明日が初日で、会期は4日間のみ。会期中は晴天に恵まれそうだ。

絵画は全くの趣味。好きというだけで描いている、そのピュアな良さが存分に出ている好い個展だ。プロでなくても、公募展、グループ展などに出品するだけの相応の力のある人や、逆に公民館活動などによく見られる、「勘違い」レベルの人(絵だけのことです。失礼)のどちらでもない、つまり、ごく普通の絵の好きな人が、ことさらな邪欲のないまま、まるで子どものような単純な向上心を持って、素直に描き続けてきた、屈託のない絵がそこにある。

器用では全然ないが、無神経でもない。上手くはないが、それなりの工夫はある。斬新というほどのことはないが、古さを感じさせない。つまり、それなりの、見るべきところはある絵画展なのだ。

こういう絵は実際にはどこにでもあるはずだ。が、案外に見ることは多くない。それは何故なのか?それは、より上手くなっていわゆる公募展レベルになっていくか(この場合、必ずしも良い意味には使っていない)、あるいは駄目なままか(言葉が大変悪いが半分くらいジョークとして受け取って下さい)、変な考えに毒されて更に駄目になる場合が多いからではないかと、私は以前から考えている。

素直な向上心(素直なだけでは物足りない)を持ち続けることが、難しいということなのだろう。この人の絵の仲間のお一人が最近亡くなったが、その人も、素直な向上心を持ち続けた方だった。良い仲間は大切だ。その仲間を喪ったことが、今度の個展を後押しした理由の一つであることは(聞いてはいないが)確かだと思う。 2011/5/18

シェルターの男(習作)

シェルターの男  f40 Mixed-medium 2010

何枚目かの「シェルターの男」である。最初の「シェルターの男」は、防波堤のような、コンクリート状の壁の背後にうずくまっていた。手、足のあたり、頭部だということは分かるが、その手が何かを持っているのか、胡坐を描いているのか、足を投げ出しているのか、顔らしきものが感じられるが、それがどちらを向いているのかはっきりしない。それが第1作だった(2010秋)。

やがてシェルターがカプセル化し始めた。カプセルは外界から自分を守る、あるいは他と孤絶するためのものだが、カプセルの中の逞しい男はどう感じているのかは分からない。

「男」と書いたが、本当は女なのか不明である。いずれにしても、あまり愛嬌のありそうな感じは無く、人の形はしているが、少し野性動物に近い感じである。とすれば、このカプセル様のものは実はカプセルではなく「檻(おり)」なのかも知れない。誰かが閉じ込めたのだろうか。

今から30年くらい前、「檻」というシリーズを描いていたことを思い出した。

肉を喰わない犬

肉を喰わない犬がいた。

それは骨を喰う犬である、というより骨しか喰ったことのない犬である。

本来、犬は肉が大好きな動物である。骨と肉を一緒に食べることはあっても、肉を措いて骨だけ食べる犬はいない。

この犬は、貧しく、肉を喰ったことがないのである。わずかに干からびた肉のこびりついた骨が、この犬の最大のごちそうであった。かすかな肉の匂いと、歯にこすれ、唾液に溶けだした薄い肉の味のする骨が、この犬の大好物であった。

時々は、すこし多めに肉がこびりついていることもあり、そんな時犬は躍り上がって喜んだ。「なんてうまい骨なんだ!今日はついてるぞ」。普段は、骨にすらありつけない犬は、乾ききった、パサパサの骨ですら、見つけるたびにしゃぶるように、惜しみながら喰うのだった。

長い時間が過ぎたある日、肉の塊が犬の目の前に落ちていた。肉屋が紙に包んでくれた肉を袋に入れたおばあさんは、その袋に穴があいているのに気がつかなかったのだ。             「これは何だろう?随分うまそうなにおいがするが、食べたことのないものだ。こんなものを食べて腹を壊したら大変だ。この間も腐りかけた残飯を食べてひどい目にあったからな」。

しかし、目の前の新鮮な肉からは、とてもいい匂いがする。犬は思わず叫んだ。「ああっ!これが骨だったらなあ!」

犬は誘惑から逃れるように、急いで走り去った。

魚を喰わない猫がいた。ホウレン草が好きで、なぜか、特にその赤い根の部分が大好きである。奥さんが買ってきたまま台所に置いてある、まだビニールの袋に入ったままのホウレン草を見つけると、喉を鳴らしながら顔をすり寄せ、体をくねらせながらホウレン草の匂いを楽しむのだった。

やがて鋭い爪で袋を破り、ホウレン草を引っ張り出す。好物の赤い根を横に咥えながら、シャリシャリと齧り始める。

奥さまは、ホウレン草のおひたしが大好きである。

久しぶりに、ちょっとお話を作ってみました。         2011/5/9