「ばか!」

飛ぶ男 P20 2013
飛ぶ男 P20 2013

上手にボタンをかけることができない男の子が1人。

その子より幼い子でもちゃんとできたから、それは男の子が幼すぎたからではない。

男の子は初めて自分でかけたボタンをかけ違った。大人のしぐさを正確に真似たつもりだったが、そして十分に動作を呑み込んでからボタンをかけてみたのだったが、ボタンとボタンの穴はひとつずつずれていた。

彼は急いで全てのボタンをはずし、やり直した。しかし再びボタンはひとつずつずれた。彼は意地になり、何度もかけなおしたが、その度にボタンは意地悪くずれるのだった。

いや、実は何度かきちんと合ったこともある。けれど、彼は偶然にできたことに納得がいかず、必ずぴったり合うための「秘密」を知ろうとした。

それは彼にとって、大変な難問であった。どうして他の子はいつもちゃんとできるのだろう(彼にはそう思われた)と思ったが、その子に直接「どうやるの?」と聞くことはなかった。

「こうやるんだよ」と自慢げにやって見せられるだけでは、秘密は明かされないと彼は考えた。自分ができることと、人に説明できることとは別だ、と彼は本能的に悟っていた。それに、そんなすごい秘密を簡単に教えてくれるはずはない、と大人っぽく先回りして考えていた。

やがて、男の子は指から血を流しながらすべてのボタンを引きちぎり、地面に投げつけて何度も何度も踏みつけた。ボタンのせいではないと解ってはいたが。

1人の女の子がそれを見ていた。

その子はいつも自分でちゃんとボタンがかけられたが、なぜ自分がうまくできるのかなど、考えたことも無い。そんなの、彼女にとって当たり前のことにすぎなかったから。

女の子には、男の子が異様なほどボタン遊びに熱中しているように見えた。そして彼がついにボタンを踏みつけた時、まるで自分が踏みつけられたように感じて、思わず叫んでしまった。

「ばか!」                                2013/8/1

 

ムラサキシャチホコ蛾

わが庭のイラガ

ムラサキシャチホコ蛾
ムラサキシャチホコ蛾

「ムラサキシャチホコ蛾」。6/30に下北へ出発する直前に、なぜか目の前に。初めて見る蛾だ。この蛾がなぜか最近人気急上昇らしい。確かにこの丸まった枯葉の迷彩塗装は現代的だし、ヘタな画家顔負けの立体感表現がすばらしい。なによりかっこいい。そいつが、下北への出発間際、まるで見送りのように出てきてくれた(ちょっと不気味な見送りでもあるが)。無毒なのも好感が持てる。シャチホコの名は幼虫がシャチホコのように尻を持ち上げる習慣があるところからきているらしい。ムラサキは高貴の尊称である。この蛾にはもう一度会ってみたい。

*この記事には後日匿名の方から「これはウンモンスズメです」というご指摘を頂きました。画像検索してみるとご確かに指摘どおり。匿名の方、ありがとうございました。記事自体はそのままにしますが、この蛾は「ウンモンスズメ」です。訂正いたします。

三沢航空科学館(青森県)にて

三沢基地のF-16戦闘機
三沢基地のF-16戦闘機

7月4日、下北からの帰り(6/30~7/4まで所要で下北に行ってきた)、三沢市の青森県立航空科学館へ立ち寄った。当日はもう一か所、斗南(となみ)藩記念観光村にも足を延ばした。寺山修司記念館も近い。

今日の話題は航空科学館。航空自衛隊三沢基地とフェンス一枚で隣接している。科学館から見て、自衛隊基地の奥に米軍三沢基地がある。着いたのは11時頃だったが(たぶん)自衛隊のF-16がひっきりなしに発進、急旋回等の訓練を繰り返し、爆音が響いていた。

旧陸軍双発高等練習機
旧陸軍双発高等練習機

見たかったものの一つは、昭和18年訓練飛行中に十和田湖に墜落した旧陸軍「一式双発高等練習機」。2012年9月5日、69年ぶりに湖底から引き上げられ、現在同科学館に展示中だ。

湖底から引き上げられたこの機体を見ていると、4人の搭乗員のうち一人だけ救助された少年飛行兵(17歳だったか?)の苦しさや、亡くなった3人の驚き、動揺、必死さ、無念さが何故だか伝わってくるような気がするのは不思議なこと。やはり戦争はいやだとあらためて感じた。