
「手すさび」という言葉はもう死語だろうか。暇つぶしの手遊び、というほどの意味だが、現代人にはもう暇などないのかもしれない。
スケッチの本領は、じつは描くことにではなく、「じっと見る」ことにある。いい加減なものは、じっと見られることに耐えられない。きちんと作られたもの、よく考えられたもの、多くの人に愛されたもの。そうしたものは、深く見られれば見られるほど、次第に、厳かにその真価を現してくる。その真価に目と手で触れること、それがスケッチだ。
スケッチを描く意味は、ただ形や色を写すことにはない。視線の先にあるものと繋がること。ペンと紙、眼と対象物が繋がって一つのループになること、それが描くということだ。ペンの先、線の先から、無数の見えない糸がさらにオーラのように延びて、モノの放つオーラとつながる。「見ることは愛すること」と誰かが言った。生きたスケッチとはそういうもの。