
行動美術協会に所属する矢本さんの絵を、少なくとも10年以上、興味と尊敬をもって拝見しています。これは今年2021年9月の行動展で発表された矢本さんの作品です。一度お会いしたいと思っていますが、まだお会いしたことはありません。
一見で、この人はヒエロニムス・ボスとかブリューゲルに強い共感を持つ画家だろうな、と皆さんが感じると思います。一つはその色彩です。もうひとつはかたちの崩し方に対する好みです。この2つが一致する画家はたくさんいそうに思えますが、実は意外に少なく、ボスやブリューゲル系の画家に絞られてしまいます。
ma、そんなことはどうでもいいのです。この絵から感じられるのは、「世の中は厳しい」というリアルなメッセージです。同心円、中央が凹んでいるという構図が「歯車のように、正確で情け容赦のない」現実の状況を象徴しています。まるで「奴隷制度」の図式化のようだと、わたしには思えます。
そんな楽しくない状況を想像しながら、色彩のストイックな美しささに引きずられて、一歩二歩絵に近づいてみると、たぶん数百人はいる登場人物の、その一人一人はどれもものぐさで(時にはパンツまでずり落ちていたり)、自堕落なポーズをしています。これを「(かすかに奪い取った)自由」と見るか、「(諦めのなかの)自由」と見るかはその人第ですが、色彩他の全体構成から考えても、アメリカ的、楽天的な自由感だけはきっぱりと排除していると思います。「自分が自由だと思っているアナタ」へ、あなたの自由は本当はこんなものかもしれないぜ、それでもいいのかい、という自問を迫る絵だとも感じるのです。