

上は制作中。下が完成作。2枚を並べてパッと見えるのは、制作開始直後の「鮮度」。何を描こうとしているかが制作中の絵では単純明快なのに較べ、下は画面全体に目配りがされ、そのぶん逆にインパクトが弱くなっているということ(撮影場所を替えたので色が異なり、別作品のように見えるが)。別の言い方をすると、上の段階で止めておけば良かった、のかもしれない。実は多くの人が毎日のように、「あそこで止めておけば」という経験をしている(はず)。
然而、それは結果論であって、現実にそこで止めることはほぼ不可能なこと。その時点で完成作は(ある程度予測はできているが)まだ存在していないのだし、作者の頭には “希望” しかないからである。そこで止められるようになるには、非常に多くの痛く、苦い経験と、それによって深化した造形思考の蓄積が必要だ。
で、要するに完成作が途中段階より悪くなったんですか?といえば、そんなこともないと思う。確かに鮮度は少し鈍くなったかもしれないが、そのぶん見る楽しみは増えています。作品の中身というのは鮮度だけではないのです。美味しい刺身だって、切れ味鋭い包丁さばきと落ち着いた環境やいい酒と合ってこそ美味しいものでしょ?釣れたての、まだ生きている魚にいきなりかぶりついたってそれはそれ、なんです。素材の鮮度はもちろん大事。それを料理する腕も劣らず大事。なんて、言い訳に聞こえているでしょうか。