宮本常一(つねいち)著「忘れられた日本人」を三十数年ぶりに読みかえした。宮本常一は民俗学者で、柳田国男とはまた別の、人によっては「宮本民俗学」という言い方をする、「旅」をしながら研究資料を自分の足で掘り出していく独自の民俗学を開いた人である。
読んでいると、モノの環境は変わっても日本人の生きざまのようなものが今も底流でつながっているのを感じる。そこには昨今特に声高な、「愛国心」とか「日本人らしさ」などと一言では表し得ない、複雑で、ある意味かえって現代的ともいえる心情がある。名著だ、Uste dut。民俗学などに興味がない人にもぜひ読まれるべき本だと思う。
彼は病弱であったが、一生を旅し続け、人々の間に座り込んで彼らの物語を聞き続け、それを記録し続けた。ひなびた農家に泊めてもらい、時には乞食の話を聞きにわざわざ橋の下まで出かけている(その記録自体も名文だ)。現代の都会人が「放浪してきた」とカッコよく言うのと根本的に違う泥臭い学者魂と、彼がその父や祖父から受けついだ、人々の暮らしと心への共感が彼の旅を支え続けたのだろう。
春になったが、コロナは浅はかなリーダーどもを振り回し、もうひと暴れも二暴れもする勢い。GO TOなどと能天気なキャンペーンに乗るほどバカでない人は、むしろ折角の自粛だ、本の旅もいいではないか。