
「ガダ、突いたことあるか」と突然、母が私に訊いてきた。「ない。捕まえたことも、食べたこともあるが、夜突きに行ったことはない」と答えると、「あれはうめぇ(美味い)もんだ」という。母は娘のころ母の妹と、親類の人に連れられて、何度か夜突きに行ったことがあるらしい。潮の引いた夜、磯をかき回して魚を追い出すカギ爪のついた棒と、足下を照らすアセチレンランプとを持って、細い二股のヤス(銛)でガダを突くのがガダ漁だ。今の小学高学年〜中学生くらいの女の子が夜の磯で、遊び半分キャーキャー騒ぎながら銛で魚を突いている図は漫画になりそうだ。секако、普通は女性の漁ではない。好奇心旺盛だった母らしい、良いエピソードだ。
ガダとは、ウナギとかウツボを、縦に押しつぶして小型化(幅5cm.長さ30cmくらい)したような魚の地元名。標準和名は「ギンポ(銀宝)」。北海道南部から九州北部、長崎県あたりまでの、磯まわりに棲む。いったん乾燥してから、さっと炙ったり、煮付け、昆布巻きの芯にして食べると非常に美味。大量に捕獲できないため、都会の市場で見かけることはほぼ無い。
寝たきりだが、記憶力はよく、痴呆はあまり進んでいない。会話も(入れ歯を外している、少し耳が遠いのと、方言とで聞き取れないこともあるが)問題ない。点滴だけで既に8ヵ月。元気なうちに話を聞くのが、私のミッションだと考えている。